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初葱館 ~The Grimoire of dolls

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幽玄と無限の画家 『ラ・トゥール』

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『二つの炎のあるマグダラのマリア (ライツマンのマグダラのマリア)』
By Georges de La Tour

 ええ、これがあの聖書に記述されている“マグダラのマリア”なの?…正直、イメージが合いませんでしたね。それもその筈、イエスの足に香油を塗り、それを髪で拭ったとされる彼女は、クリヴェッリのマグダラのマリアのように(下参照)、香油壺を持つ豊かな長い髪の女性に描かれることが定番でした。
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『マグダラのマリア』
By Carlo Crivelli

 ところがラ・トゥールの場合、香油壺の代わりに髑髏・鏡・蝋燭の炎が描かれています。いずれも、従来のマグダラのマリアとは一線を画すものです。髑髏はヴァニティ(虚栄)と共に静かに迫りくる死を象徴するものでした。常に死と隣り合せだった当事の時代背景(戦争や疫病の流行)をよく反映するものだと思います。

 また、鏡も虚栄の象徴であり、且つ自分の姿を映すことから、『己を知る』ことの意味も生じます。またその像はとどまることなく時々刻々と変化するもので(鴨長明・方丈記)、故に『儚さ』の象徴でもありました・・・。ラ・トゥールの作品はさらに、危うげに揺らめく蝋燭の炎が鏡に映るという、現世の儚さが一層強調される形で表現されており、実に興味深いと思います。

 クリヴェッリの時代(ルネサンス・人間復活の時代)に対して、ラ・トゥールの時代(宗教改革の時代)はローマ・カトリック教会が贖罪に重心を置いた考えを推したため、マグダラのマリアもそれに従い、悔い改める図が一般に好まれるようになりました。特に無視できないのはこの時代、従来の宗教が否定され(宗教改革)絶対的価値観が揺らぎ、その上長期化する戦乱が人身を激しく乱し、さらに追い討ちをかけるようにペストが大流行したことです。このようにして死は、人民にとってより身近なものへと変化していたわけです。

 以上のことから、『ラ・トゥールの絵に死や儚さを暗示する髑髏・鏡・揺れる蝋燭の炎が描かれたのは何故か?』という疑問が理解できます。また、ラ・トゥールの目が常に人々を見つめ続けたことも同時に理解出来ると思います。

私のホームページ:『The Grimoire of dolls』
(サークル あみゅれっとぉ。HP …イラスト&音楽)
by hachune-ya | 2009-02-20 00:55
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音速が遅いぜ。


by hachune-ya
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